応用経済時系列研究会 第36回研究報告会

 私がメンバーに加えて頂いている研究会の一つに、応用経済時系列研究会(http://www.saeta.jp)というものがあります。大変歴史のある研究会で、日本が得意とする先端の時系列解析の手法を経済・金融分野応用へした研究を発表ならびに議論することを目的としており、同分野の大学、公共研究機関、民間企業の研究者の方々により、毎年、活発な活動が行われております。私自身は決して、経済や金融市場の分析を専門としているわけでもないので、いささか場違いの勘もありますが、時系列モデリング事例や手法については、私が探求している分野と共通する部分もあるので、勉強させてもらっております。また、博士課程での同期や先輩の研究者の皆さんとも久しぶりにお話しができるいい機会でもあります。

 今回の私の関心事は、金融市場分析におけるAIの応用事例にありました。やはり、社会インフラのAIの応用事例が顕在化してくるのは、まずは金融時系列の分野であろうと考えており、すでに、AIと金融市場に関しては、エポックメーキングとして、日々のニュースでは頻繁に報道されておりますが、やはり、現実との温度差はこうした場に出向かないと感知できないと日頃から思っているからです。今回、AIの応用に関する研究発表は2件で、SMBC証券株式会社、あすかアセットマネージメント株式会社の方から、それぞれ、「LSTMを用いた日本国債先物運用に係る予測分析」、「人工知能による日経平均ボラティリティ・インデックスの予測」に関する発表がありました。いずれも再帰的ニューラルネットワーク(RNN:Recurrent Neural Network)の一種であるLSTM-RNN(long Short Term Memory Recurrent Neural Network)を掲題に関して適用をした内容です。この場で部門外の私が、詳細を述べる意味はあまりないと思いますので、ご興味のある方は、後者の方原論文が公開されているようですので、ご覧いただきたいと思いますが(https://www.jpx.co.jp/derivatives/futures-options-report/index.html),所感としては、両方の内容とも、人工知能の実用への可能性は示唆しているものの、実用にはまだ距離があるように感じました。実際、講演者の方々からは以下のような課題が報告されておりました。

*学習の良し悪しは、学習に用いる事前データ処理、ハイパーパラメータの設定に依存し、現状ではヒューリスティックな施行を行っているため、厳密性に欠ける。今後、パフォーマンスの向上及び安定性を追求する上で、条件設定のための科学的手法が必要である。

*実際に運用に用いる上では、精度の向上及び安定性を担保するモデルのチューニングが必要である(Epoc数、ニューロンの数、隠れ層の数等)

 これらのご指摘は、金融市場に限らず、一般的にAIのモデリング応用という点からも、まったく腹落ちする点であります。やはりAIの実務での応用と普及においては、ハイパフォーマンスのアルゴリズムの開発も重要ですが、市場やビジネスのダイナミックスを理解し、実務の実態に合わせてモデルの最適化をすることが重要で、今後、実務のダイナミックスとモデル空間の双方を理解できるハイブリットなスキルを有する人材需要は高まってゆくと思います。

 

2018年07月23日