米国大統領選挙の暫定結果を見てみると... Again!!
普段の業務では、ライティング作業が多いので、こちらの方は、大分、ご無沙汰してしまいましたが、大学での講義の雑談ネタも兼ねて、久々に投稿します、まだ、完全に結果データはでておりませんが、先般の米国大統領選挙の結果は、大方の世論調査の接戦予想に反して、トランプ候補の早期の勝利となる見込みで、今後、最終結果とともに、より詳しい分析が行われるものと想像しますが、すでに、世論調査の正確さへの議論が始まっているようです[1][2]。
前回の大統領選挙(2020年)の際にも、紹介しましたが、私は、政治学には素人ですが、アイオア大学のLewis-Beck教授らが提唱しているPolitical Economy Model(PE model)の結果に興味を持って結果予想を見ています。大統領選挙予測の方法は、大別して、各調査機関が行う調査に基づく予想と様々な説明変数を導入したモデル予想(あるいは、両者の組み合わせによる)ものが見られますが、同教授らによるモデルは簡素なモデルで、数式自体は、中高校生にもわかる、重回帰式で、政権政党の得票率は、政権政党の人気と直近の経済成長で表されるというものです。興味のある方は是非、原論文[3]を見ていただきたいのですが、ここで、現政権政党の人気は、Gallup調査のapproval rating(7月)の値、直近の経済成長は、選挙年の最初の2四半期のGNPの値を用いています。きわめて、シンプルなもので、同式の得票率の予測信頼性については、予測値の信頼区間の議論があるので、考慮が必要ですが、過去19回の大統領選挙(1948年~2020年)における、勝利政党の的中回数は、17回となっています。また、米国大統領選挙においては、各州の代表選挙人の獲得が、実際の勝敗を左右しますが、同教授らの研究では、政権政党の候補の選挙人獲得シェアと、先ほどの政権政党の得票率の間には、強い相関があり、一次回帰式で表され、過去の選挙での当てはまりは、決定係数R2で、0.93であることが報告されています。
さらに、同教授らは、なぜ、世論調査での予測が難しいのか?をも、別な論文[4]で考察しています。詳細な要因が指摘されていますが、大きな要因は、投票人の分布を十分に反映できるような調査サンプルを得ることが、難しいことが挙げられています。適切な世論調査は、できるだけ投票人の分布を代表できるような階層サンプリングを行う必要がありますが、コストや時間の制約から、現状、用いられているRandom digit dialing(RDD)調査では、十分なサンプル数を得ることが難しい上、回答への信頼性や様々なバイアスが混在しやすく、また、オンライン調査は、低コストではあるが、十分なパネルメンバーの確保や登録バイアスの問題が述べられています。
今までの議論に加えて、2024年の選挙予測に対しては、オリジナルのモデルから、誤差を生成する可能性のある要因―経済変数、コロナの影響、政権政党への優位性を加味した、改良モデルによる評価が検討されています[3]。ここで、新たに検討された7つのモデルとは、1)GNPの代替えとして、失業率、個人可処分所得、インフレ率を用いる 2)コロナの影響を考慮し、経済成長及び政権政党の人気の変数にダミー変数を入れる 3)経済成長に政権政党のダミー変数を入れる 4)3)の条件をさらに細分化して、ダミー変数を入れる、のモデルを検討しています。同モデルの過去のデータの当てはまりの評価では、決定係数R2で、0.70~0.86の範囲となり、また、2024年8月29日の時点でのデータを用いた、政権政党の得票数のシェア%は、48.1~49.1%となることが示されています。モデルの予測の議論は、前述したような考慮が必要ですが、ちなみに、最も当てはまりの良かったモデルを使い、2024年8月29日時点での、現政権政党の得票数のシェア%は、49.1%、現政権政党の候補者の選挙人の獲得数を算出してみたところ、223人となります。まだ、最終結果数は確定していませんが、AP通信社(11月10日、11:25 JST)では、政権政党の得票数のシェア%は、47.9%、現政権政党の候補者の選挙人の獲得数 は226人とリリースされていますので[5]、政権政党の得票数のシェア%については、やや開きが見られますが、勝利政党候補者については、どのモデルでも、2024年8月29日時点で、現状を示唆していたようです。
昨今、ビックデータを用いたコンピュータパワーに任せたアルゴリズム予測に注目の大勢がありますが、同時に、機械的な予測を鵜呑みにする危惧と、シンプルだが、本質を吟味するデータ分析の重要性を再認識してゆくことが必要であるように思います。
<参考サイト>
[1] N. Sherman: “Did the US election polls fail?” , BBC News (Nov.8,2024)
[2] 読めない勝者、大接戦の米大統領選 統計分析や賭けサイトも予想割れ,毎日新聞、2024/11/6 05:30(最終更新 11/6 14:00)
[3]C. Tien and MC. Lewis-Beck: THE POLITICAL ECONOMY MODEL: PRESIDENTIAL FORECAST
FOR 2024
[4] N. Jackson, MS. Lewis-Beck and C. Tien: Pollster problems in 2016 US
presidential election: vote intention, vote prediction, Italian Journal
of Electoral Studies, 83(1), pp17-28,2020
[5] AP’s essential role in elections