米国大統領選挙の暫定結果を見てみると...

 懸念されたとおり、コロナ感染者数の増加が再燃、思い出したように棒グラフが登場し、相変わらずの堂々巡りの議論があちこちで始まりましたが、今回は、一方であまり報道されなくなった米国大統領選挙とモデル分析について述べてみたいと思います。COVID-19の問題と並んで、米国大統領選挙も、データ解析やモデル分析が重要となる事象で、今年は関連の学会誌等では結果予測や実証分析などの論文記事も多く見受けられます。Iowa大学のLewis-Beck教授らは、最近の論文[1]で、米国大統領選挙の予測方法の概要とそれぞれの長所・短所等についてやさしく解説しております。同氏らによれば、今までの予測手法は、概ね2つに分類でき、どのように政治的及び経済的な論点が投票に影響するかの理論を反映した実質的な説明による構造モデル(回帰式として事前に評価される)と、メディアで最もポピュラーなものとして、有権者のパブリックオピニオンの投票調査に傾注したモデルアプローチを挙げており、近年では、2つを融合した合成モデルも台頭してきていると述べています。

 また、予測モデル性能評価の基準としては、次の4つの特徴の重要性を指摘しています。

1. 精度:予測がどの程度、選挙結果を捉えているか?

2. リードタイム:投票日のどのくらい前から十分な予測が可能であるか?

3. モデルの理論や説明変数の単純度(オッカムの剃刀): プロセスにムダはないか?

4. 予測プロセスの透明性:同じ説明変数で、同じ予測を再現できるか?

 今回の選挙結果の予測アプローチでは、前回(2016年)のメディア予想の失敗の経験を生かすことが求められていましたが、上の基準を吟味し、同氏らは、失敗の主な要因は、精度の低い投票意識調査に過度にウェイトを置いたことを挙げており、また、Jacksonらは[2]、2016年の大統領選挙の実証分析として、州毎に主要メディアによりリリースされた政党別支持率調査結果と選挙結果を比較分析し、州別にその誤差を明らかにしています。特に州レベルの調査におけるトランプ氏の支持率の過小評価と非確率的なサンプリング調査に過度にウェイトを置いたことが、2016年の予想の失敗の要因であるとしています。

 また、よく知られているとおり、最終的には選挙人団(Electoral College)による投票で時期大統領は決定されるので、投票数や支持率の予想から、州レベルで選挙人数の選出結果を予想しなくてはならず、州レベルの支持率調査に基づく予測精度の低さが直接の弊害になることも指摘されています。一方、Positiveな分析結果としては、州レベルでの選挙人数の選出結果の予想の精度は問題がありますが、全米州における政党支持率と選挙人数の選出比率にはよい相関がみられることが報告されています[2]。

 上の図は、歴年の米国大統領選挙における全州でみた政党支持率調査(横軸)と獲得選挙人数のシェア(縦軸)の関係を示しています。Winnerの予想では、1948年から2016年までの18の大統領選挙中、2000年と2016年の予想は外れていますが、[2]によれば、両者の関係は、R2=0.93と高い線形関係を表しています。気になるのは、2020年の選挙戦はどうなったか?ということですが、未だ、最終結果は決定していませんが、現時点での集計結果を当てはめてみると、主要メディア報道によれば、現時点での最終結果は、トランプ氏:232人に対して、バイデン氏:306人ですから、バイデン氏の獲得選挙人シェア(縦軸)は、56.8%になります。一方、政党支持率は、BBCによれば[3]、投票日前日の11月2日における政党支持率は、民主党:52%、共和党:44%と報告されているので、2020年のデータとして(52,56.8)をグラフにプロットしてみると.....赤★印のポイントになり、ほぼ相関直線上に乗ってますね(Bingo!)。まだ、最終結果であるとの認定がないことに加え、信頼区間の問題やどの時点の支持率を妥当とみるかという点など、反証の余地はありますが、現状の結果は過去の実証結果とは大きく矛盾しないと考えられます。単純ですが、一末の真実に迫れるような頑健な論文や分析には、いつも爽快感を感じます。

 

 

<参考文献>

[1] C. Lewis-Beck and M. Leiws-Beck, U.S Presidential Election Forecasting:

The Economist Model, FORSIGHT, 38, pp.38-44,Fall 2020

[2] N. Jackson, MS. Lewis-Beck, C. Tien, Pollster problems in the 2016 US presidential election: vote intention, vote prediction, Italian Journal of Electoral Studies, 83(1), pp.17-28, 2020

[3] 【米大統領選2020】 世論調査を追う どちらが有利か

https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-53681889

2020年11月22日