知的スタミナの鍛錬

 日々、目先の課題に追われているうちに、今年もあと二ヶ月余りとなりました。コロナに明け暮れた一年になりそうですが、久々に状況を俯瞰してみると、コロナ環境に慣れ、世の中は落ちついてきたように見える一方、この間、特段、社会行動と感染拡大の新たな知見や感染防止に向けた行動指針が蓄積されたようには思えません。以前は、日々、更新される感染者数の真偽や実効再生産数の動きから、新たな政策指針を見出そうとする機運も高まっていましたが、現在は、東京で感染者数が200を超えても気にならない風潮で、専門家からの見解も報道であまり耳にしなくなりました。 一方、最近、目を通した、フランスのEMリヨン経営学大学院のJeroen Struben準教授の論文[1]では、2019年12月31日~2020年5月15日の期間において、韓国、ドイツ、イタリア、フランス、スウェーデン、米国で起きたコロナ感染のアウトブレークとピーク後の戦略について、解析的な分析を行っており、そこでは、テスト能力の拡大へ注力とタイミング、並びに社会的接触の減少が、どのように相互作用し、感染ダイナミクスに影響するかをSDモデルにより評価しています。その内容には当然、賛否があると思いますが、47ページに及ぶ長編論文で、よく短期間で、ここまで練り上げたものだと感銘し、”知的スタミナ”の迫力を感じます。

 これから本格的に到来する”With Corona"あるいは"Post Corona"の時代では、既存の社会フレームワークを変更するために、様々な複雑な課題に直面すると予想されますが、課題解消に際しては、高い”知的スタミナ”が必要になると思います。”知的スタミナ(体力)"とは、「正解のない問題を何時間でも何日でも考え続ける能力」と定義されることもあるようですが[2]、私はこれに加え、「限られた時間・資源で、課題解消に向けた知識を集結できる能力」もプラスしたいと思います。いわば、知の”持久力”と”瞬発力”の両局面です。ちょっと調べた限り、組織に対する”知のスタミナ”の計量方法や事例は見つかりませんでしたが、With or Post Coronaの時代では、真に日本社会及び企業の、組織としての”知のスタミナ”が試されることになると考えられます。私自身、米国企業で長年、直属の上司及び組織の同僚はすべて非日本人の環境で(日本人は一人)、アナリスト業務に従事し、また、若いころは、シリコンバレーのベンチャー企業でプロジェクトに従事した経験もあるのですが、わが身を含め、日本人スタッフの”知的スタミナ”の劣勢を実感する場面が多々ありました。もちろん、出てきたアウトプットの内容については賛否はありますが、やはり、時折、彼らから出てくる、限られた時間・資源で、創出された課題解消に向けた知識の集結には迫るものがありました。

 結局、冒頭のコロナの例のように、社会課題への関心が続かない現状や、判断理由のほとんどが”俯瞰的・総合的観点”に帰結してしまったり、”印鑑の廃止”など、一端、話題が上がると急速に一方向に傾注してしまう現状は、根幹では”知的スタミナ"の持久力及び瞬発力のレベルが反映されているように思えます。また、最近、私の業務のやりとりでよく挙がる話題に、”GAFAの覇権と規制の影響について”があり、GAFAの対抗策として、日本企業におけるIT人材の育成と確保が急務とされていますが、こうした現状を垣間見るに、その前提として、個人の”知的スタミナ”を向上させることがより重要ではないかと考えています。私も決して他人事ではないので、時代に取り残されないよう、一新して”知的スタミナ”の鍛錬に努めたいと思っています。

 

 

<参考文献>

[1]Jeroen Struben,"The coronavirus disease (COVID-19) pandemic: simulation-based assessment of outbreak responses and postpeak strategies", System Dynamics Reviews,

https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/sdr.1660

[2] タイム・コンサルタントの日誌から:"採用基準 地頭より論理的思考力より大切なもの"

https://brevis.exblog.jp/20469756/

 

2020年10月26日