新コロナウィルスの世界的蔓延については、何とか収斂の目途がつくことを願うばかりですが、同時に世界経済悪化の各産業への影響が、今後、結果として、大きく顕在化してくることが懸念され、市場見通しの修正に頭を悩まされている方々も多いかと思います。ハイテク関連市場では、2020年は、多くの分野が前年からの回復、あるいは、新技術の浸透による成長を織り込んでいたので、見通し修正を急がれているのではないでしょうか?[補足] 私も、現在、さまざまな経済指標や各機関からの修正等をチェックしており、それに関連し、若干の私見を記したいと思います。
私自身も、過去、何百回と市場予測作業に従事していますが、予測値を作る側、あるいは利用する側としても、気をつかう予測値があります。それは、前期からの”横バイ(ゼロ成長)"、あるいは、それに近い予測値です。見た目、”横バイ予測”は地味ですが、予測の作り手からの視点では、かなり、強いメッセージを秘めています。実際、市場が横バイに推移することは珍しくないので、”横バイ予測”がいつも問題であるということではないのですが、ケースによっては、詳細な吟味を要するということです。特に、数値モデルによる予測では、そのモデルの予測能力の検証のリファレンスとして、前期と同じ数値をおいたケースを”Unpredicted"として比較対象とされ、平均二乗誤差等で、パフォーマンスを下回れば、モデル自体の有効性が問われますので、リリース前に、再度、詳細な吟味が必要です。
やや、業界の裏話的なことですが、”横バイ予測”をリリースする背景としては、以下のようなことがあるように思います。
1) 予測の前提となる要因(あるいは変数)が、ほぼ予測期間内では、定常状態を維持する。
2) いくつかの要因には大きな攪乱が予想されるが、その他の要因が相殺する方向に働く。
3) 影響の大きい要因が、なんらかの理由で予測値の律速要因となる。
4) 実質的な予測変動要因を検討できない。もしくは、何らかの理由により、予測者の心理として、明確にプラス、あるいはマイナス成長を示したくない。
1)の場合は、本質的に需要が一定であり、季節変動等のみが寄与するケース(例えば、一部の耐久財や食料品等)は、これに相当するかと思います。また、3)の例としては、主要な部材供給が不足する場合とか、生産キャパシティが限られる等のケースがあるかと思います。4)のケースは、予測機関に属する予測者は、意図的でないにしろ、リリース後のリアクションを考慮することも多々あり、特に予測変動要因を十分に特定できない場合に起こるケースです。また、2)のケースは、出荷個数と価格変動の関係等により、その事例により、ケースバイケースでありうるケースです。したがって、予測利用者は”横バイ予測”を受け入れる場合には、少なくとも1)-4)を吟味する必要があると思います。特に、今回のように、世界的な動乱を背景とする場合には、1)のケースは一般には対象外となるので、2)及び3)に関する理由を吟味し、4)が疑われるならば、その旨を考慮して扱うべきでしょう。
また、すべての期間で、予測値に理解可能な理屈を探し求めることも、効率的ではありません。私自身、過去、”ITバブル崩壊(2001)"、"リーマンショック(2008-2009)"、”東日本大震災(2011)"等の動乱時において、市場見通しの大幅修正を迫られました。その経験では、大きなショックの4-6ヶ月程度の動きは、後付けの理屈はつきますが、合理的理屈を予測することは困難です。この場合、当面は指標データによるモデル予測などの客観的手法を重視し、心理的及び経験的に受け入れがたい数値でも、該当期間は最悪ケースへの対応を備え、それ以降の期間においては、回復シナリオを織り込んだ予測に基づき、ビジネス戦略の検討を行うことが有効であると思います。
[補足]
ビジネス予測では、予測数値の精度のみに過度な関心を置くことは有効ではなく、予測プロセス自体に意義があると考えており(過去の関連ブログ:「ビジネス予測の目的とは?」)、現状の予測では、市場推移の方向性とインパクト(変動の下限値、もしくは上限値)に留意すべきと考えています。