早いもので、今年ももう終わりに近づいてきました。毎年、終盤になると、米国ガートナー社(ガートナー)から来年以降の動向を踏まえた、さまざまなテクノロジ分野についてHype Cycle分析がリリースされます。テクノロジ・ビジネスに関係されている方々はご存じであると思いますが、Hype Cycleとは、テクノロジ・イノベーションが実用化されるまでに経験する5つの段階(黎明期から安定期)を主要なテクノロジ要素についてマッピングし、今後の見通しを分析するツールです。詳細はご本家の解説を参照くださればと思いますが[1]、ガートナーからは、毎年約100のさまざまなテクノロジイノベーションに関するHype Cycleレポートがリリースされていると言われており、多くのメディアでも引用され、ウィキペディアでも解説されております。また、最近では、こうした分析はあまり受け入れられないと思われるコミュニティでも、引用が見られるので[2]、Hype Cycleは、本題へのイントロダクションでは便利な、”話の枕ツール”としては、浸透してきたように思います。
一方で、その手法及び内容をアカデミックな立場で見る方々にとっては、その真偽が問われる場面もあるようです。ガートナーでは、Hype Cycle自体は実証分析ではないと言及しているので[2]、こうした立場での議論自体が不適切ということかもしれませんが、それでも、流布が高まると、その分析プロセスや実証結果を確かめたいという動きもでています。その一例としては、2006年から2018年にかけてガートナーからリリースされた先進テクノロジのハイ プ・サイクルを、関連するテクノロジの日本のメディア記事数(日経コンピュータ)をリファレンスとして検証を行った分析があり、その結果では、パイプサイクルで示されたマッピングの変化は検証されず、批判的な論調は強くありませんが、その理由についての考察が報告されております[3]。また、個人的な経験でも、数年前に、IEEEのAIに関する「LSIシンポジューム」に参加した際、パネルディスカションにおいて、研究者の方々の間で、AIに関するHype Cycleの意味・解釈が物議を醸していたのを覚えています。
私もガートナー在職時においては、専門分野のいくつかのHype Cycleのプロジェクトに従事した経験もあり、現在でも時折、Hype Cycleの詳細について質問されることがあるのですが、正直なところ、アカデミックな視点からは十分に合理的な理解には至っていません。もう、自ら手を染めることはないので、このような話題には近寄らないことが賢明かもしれませんが、昨今、今一度、モデリング分析の視点から再考してみたいと感じるようになりました。具体的には、Hype Cycle分析に批評的な立場をとるのではなく、次の視点をモデリング分析を用いて考えてみたいと思います。
1.Hype Cycleの支配原理の検証
2.1.の考察に基づく分析事例の適応限界
3.ビジネス戦略ツールとしての価値ある利用法の検討
できれば、具体的なモデルシミュレーションを行ってみたいと考えていますので、多少時間がかかるとは思いますが、来年には進捗に合わせて分割して、報告できればと考えています。
<参考文献及びサイト>
[1] J. Fenn and M.Blosch,"Understanding Gartner's Hype Cycle", G00370163, Gartner Research, August 20, 2018 (https://www.gartner.com/en/documents/3887767)
[2] 高橋大志、"情報技術が産業・ビジネスに与える影響”、統計、pp.8-14、2018年1月
[3] 土肥淳子、根来龍之、"ガートナーハイプ・サイクル批評~IT業界におけるバズワードのライフサイクル~”、早稲田大学IT戦略研究所ワーキングペーパーシリーズ、No.60、2019年4月