ICPM 2019 リサーチプレゼンテーション

 諸々締め切りが立て込んでしまい、更新が遅れてしまいましたが、忘れないうちに、先月上旬にICPM 2019にて発表したリサーチについて、アップさせて頂きます。今回の発表は、終了したプロジェクトからの市場モデル分析事例で、「An Effective Approach to Monitor Semiconductor Market Cycle by Regime Switching Model」と題しており、難しい学術用語抜きで簡単に言うと、半導体設備投資の動きを反映している半導体製造装置市場のサイクル変動を、初めて確率的に捉え、分析したという試みです。

 半導体関連市場は古くからサイクル性を伴うことが知られており、未だに、その動きについて、過度に一喜一憂したり、思惑的な情報や報道が出回ります。一方、時系列経済分析の世界では、こうしたサイクル変動の問題は古くからモデル分析で取り扱われており、こうした手法を利用し分析すれば、少なくとも、共通認識として客観的に市場の動きを議論でき、生産計画や投資戦略に役立つ情報の一環として利用できるという発想によるものです。

 今回のモデル分析はその一例で、詳細な説明は、ここでは割愛しますが、結果の一部として、下図に、推定された半導体製造装置市場のダウンサイクルの確率推移(2000-2018)を示します。もちろん、これですべて十分とは言いませんが、例えば、過去の市場特性から、”現在、市場がダウンサイクルにある確率はXX%で、今後はXX%までに増加すると予想される”など、分析情報を引き出すことができ、より具体的なビジネス対応が可能となるでしょう。

 また、これも結果のみにとどめますが、推定されたパラメータを分析すれば、ビジネスに有効な情報を考察することができます。今回のリサーチ結果から一例を申しますと、

1) 過去20年間の半導体製造装置市場におけるアップサイクル及びダウンサイクルの平均期間は、それぞれ、16.8ヶ月及び9.8ヶ月と推定される。

2)但し、新たなデバイスドライバーの到来(例えば、smart phoneにおけるapplication processor や今回の3D NANDなどの立ち上がり)また、生産技術のトランジション(過去では、300mmへの移行など)が台頭する場合には、アップサイクルは、1.4倍程度長期化し、また、経済不況が顕在化する場合には、ダウンサイクルは、1.8倍程度長期化する。

3)2018年末時点の分析結果では、今回のダウンサイクルにup turnのサインが期待される時期は、過去の平均期間の考察からは、2019年の第4四半期、経済悪化が大きく影響する場合には、2020年中盤に遅延する。

などが示唆されました。

 最後に私信ですが、古くから半導体・エレクトロニクス産業に見られるように、こうしたハイテク市場の分析は、業界やエキスパートの”暗黙知”が十分に共通な資産として生かされていないと考えています。しかしながら、今日では、データサイエンス手法の一般普及及びさまざまなデータの利用により、客観的分析を通じて、一般化された知的資産として共有することが可能になったと思います(将来的には、AI化されるのでしょう..)。また、こうした資産は、一過性の問題解決のための分析にとどまらず、その後の類似な問題や他の業界の問題解決にも役立つものと期待されます。今後も、”Just my two cents"ですが、新たなプロジェクトや今まで業界で勉強させて頂いた経験を、還元できるような発表活動も行ってゆきたいと考えております。

2019年10月01日