データセンタブームと不動産サイクル

 ”キラーアプリケーション(Killer Application-KA)”という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

ICT/ハイテク産業のマーケティング関連の業務に従事されている方には馴染みのある用語かと思いますが、今後、ハイテク市場の牽引役として期待される電子機器アプリケーションの総称を一般には意味しています。何故か、最近ではあまり聞かれなくなりましたが、過去では、PC、携帯電話、タブレットPC、スマートホーン等がそれぞれ、時代とともにKAとしてスポットを浴び、常にその市況や需要見通しが話題とされてきました。

 現在もスマホの延長として、5G通信機器には注目が集まっていますが、では、次世代のKAは何が期待されるのでしょうか?現時点では、従来のような、一つの大きなKAが産業及び市場全体を牽引するという姿は考えずらいですが、あえて、KAに相当するものを想定すれば、それは”データ”であるということができると思います。データ自体は物理的機器ではありませんので、具体的には、さまざまなデータアプリのデータ蓄積や演算機能を担うstrage機器、大きくはデータセンタがそれにあたるのではないでしょうか?実際、昨今のTSMCの業績発表を見ても、中国におけるデータセンタ向けやデータマイニング用途の半導体需要の影響の増加が報告されております[1]。

 一方で、データセンタを今後の牽引役となるKAと考えるならば、その性質は従来の電子機器のKAと大きく異なることは容易に理解されます。まだ、あまり、その性格の違いがもたらす半導体や電子機器市場への影響については、よく議論されていないように思いますが、ひとつの大きな相違は、いわゆる”箱物的”な要素があると考えられます。建造物の中身はハイテク機器とはいえ、市場的には不動産的な側面もあり、今後の建設需要は投機的な動きも反映するとも考えられます[2](実際、欧米ではデータセンターが投資的対象になっているとも報告されています)。

 また、不動産市場のサイクルについては、ボストンなどの主要都市を中心に、古くから、その市場ダイナミクスについての研究がなされております[3]。現在、興味があり、詳細を調べていますが、基本的には、オフィース需要と供給スペースの需給バランスのダイナミクスと遅延効果に加え、投機的な収益期待が、不動産市場のバブルと墜落を生じさせています。今後、データセンタ建設需要に、同様な、投機的ボラティリティが大きく反映するかは確かでありませんが、投資対象としてのデータセンタ需要の特性が、メモリー需要やそれに関わる製造装置市場にも反映されることも予想されます。その場合には、その動きは、従来のKAによるものとはかなり異なった要素を含むものとなり、今までの経験に基づく考察のみで、予測することは困難になることが懸念されます。そして、このビジネス課題に対する政策を考えるには、こうしたデータセンタ需要のエコシステムを仮定として取り込んだモデル分析が必要になると思われます。

 

<参照サイト及び書籍>

[1]米中対立、半導体受託大手のTSMCに試練

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45743530V00C19A6000000/

[2] 投資対象としてのデータセンターが今、注目が高まる理由

https://www.smtri.jp/report_column/report/2019_01_31_4332.html

[3]1. MODELING the ENVIRONMENT, 2nd edition, Andrew Ford,Chapter 19, ISLAND PRESS, 2010

2019年06月30日