時代とともに変わるモデリングの概念

 あっという間に2月も終わってしまいますが、昨今、時代とともに、昔の固定観念や定義が大きく変わってゆく現実をしばしば実感いたします。このブログのテーマでもある市場データモデリングやシミュレーションに対する考え方もその一つかと思います。先般、筑波大学の東京キャンパスで開催された「ビジネスイノベーション支援型データ・サイエンス研究拠点ワークショップ」に参加いたしましたが、そこで、ワークショップの基調講演として、時系列解析の分野で著名な北川源四郎先生(現・東京大学数理情報教育センター特任教授)が、データ駆動型社会におけるモデリングの概念の変化について述べられておられました。さまざまな示唆に富む講演内容でしたが、私自身、特に納得した点は、以下の内容です。

(1)実験科学、理論科学、計算科学に続く第四の科学として、データサイエンスが重要で、そこでは、目的達成のためのモデリングが主体となる。

(2)目的達成のためのモデリングでは、必ずしも、実体の精密描写を目的とせず、精密さを欠いてもむしろ、有効な結果が得られることが多い。

(3)また、目的に直接関連しなくても、あらゆるデータを利用することを考えることが重要

 また、先般、AIで為替相場のモデリングに従事しているエンジニアの方とお話しする機会があったのですが、”専門家は難しく考えてモデリングしすぎる。むしろ、シンプルに考える部門外の人のモデルの方が実績はいい”とおっしゃっておられ、第一線の方のセンスは、北川先生の示唆にそぐうものがあるとも感じました。私なぞは、頭では理解しているつもりですが、モデリングを始めると、まだまだ、古いモデリング概念にとらわれがちです。

 

 一方、データサイエンス的な手法とは、ある意味、対局的な手法である、”システムダイナミックス(SD)”においても、古くからモデリングにおける留意点が示唆されており、MITのSterman先生をはじめ、数々の教科書では、次のような点がSDにおけるモデリングでは、重要であると指摘しております。

(4)シミュレーションする目的をはっきりさせ、結果のゴールとなるリファレンスモードを明確にする。

(5)モデリングの範囲を限定し、精密さを目指さず、必要な効果のみを付加して行く。

(6)例え、明示的なデータが存在しなくても、過去の事実や経験をモデル構造に織り込む。

 これらの点は、北川先生の示唆した事項(1)~(3)とかなり類似しているように思えます。SD手法は、データサイエンスの研究者の方々からは、しばしば批評の対象となることもあるのですが、モデリングの概念や指針が共通してきているのは興味深い点です。俯瞰してみると、近年、データサイエンスでは、ビックデータによるモデリングによる評価が実用になりつつあり、実際に役立つモデルの新たな概念や指針の重要性が取り上げられている一方、結局、それは、古くから実用に主眼をおいていたSDモデリングにおける教えに共通するということなのでしょう。

 

<参考サイト・文献>

1.ビジネスイノベーション支援型データ・サイエンス研究拠点ワークショップ:

(http://www.u.tsukuba.ac.jp/~yamada.yuji.gn/workshop/DSS/)

2. BUSINESS DYNAMICS: System Thinking and Modeling for a Complex World, John D. Sterman, Irwin McGraw-Hill, 2000

 

2019年02月28日