市民データサイエンティストの育成が急務だが...

 また、ちょっとマニアックな話題になりますが、”市民データサイエンティスト(Citizen datascientist)”という言葉を聞いたことがあるでしょうか?ちょっと前に、米国IT調査会社のガートナーがリリースした概念で、ガートナーでは、今後は、多分野におけるデータ及び高度な分析ツールの利用が可能となるため、統計や分析は専門分野外だが、高度な診断分析機能や予測機能のモデルを作成または生成することができる市民データサイエンティストが増加し、市民によるデータサイエンティストの活動により、データ分析の幅広い利用が可能となり、生産性が大きく向上すると予測しています。その当時のガートナーの予測では、データサイエンスの業務の40%は2020年までに自動化され、市民データサイエンティストが担う高度な分析業務量は、2019年にデータ科学者を上回ると予測しています(予測の数値は眉唾かもしれませんが、ガートナーもたまにはいいことをいいますね...)。また、最近、”統計学が最強の学問である”の著書で有名な統計家である西内啓氏も、最近の本の中で、このコンセプトに賛同を示しております。

 私自身も、将来的には、市民によるデータサイエンティストがビジネスユーザーによる現実のビジネス分析課題とデータ科学者の高度な分析技術とのギャップを埋めてゆくことを期待しておりますが、一方で、どうやって、市民データサイエンティストを育成するのか?(特に日本では)という点には、懸念を感じています。ガートナーは米国本社の調査企業でありますので、上のリリースは米国のIT人材事情を色濃く反映した予測分析であると推察されますが、市民データサイエンティストとなれるような人材事情は米国と日本とはだいぶ異なっているようです。私事で恐縮ですが、学位論文の指導を受けた私の先生は、著名な統計分野の研究者ですが、先生によれば、米国では統計科学はすべて科学分野の基礎と位置づけられており、大学教育では科学的アプローチ方法として統計科学にはかなり重点が置かれているようです。このため、統計に纏わる業務に従事している社会人材は、先端的な統計科学の研究者を頂点に、statistician->technician->operatorまで、かなり裾野が広いヒエラルキーが構成されており、市民データサイエンティストとなりうるかなり厚い人材層が、元来ポテンシャルとしてあるようです。一方、日本では、すでに随所で報道されているとおり、ポテンシャルとなる人材層はまったく手薄です。

 昨今、データサイエンティスト育成のための教育プログラムは、文科省の推進もあり、大学や民間教育機関で大分増えてきたようですが、市民データサイエンティストとなりうる人材育成も、別途テコ入れが必要であると思います。私自身、オーストラリアの大学のスチューデントメンターにも携わらせてもらっており、今年はビジネススクールの中国人の院生の方を担当しましたが、そこのビジネススクールでは、プログラムの専門領域が、すでにこうした社会の動きに対応しているようでした。そこでは、従来の単なる経営学修士(MBA)だけでなく、ビジネス修士号でも、ビックデータ専攻やアナリティクス専攻に特化したプログラムがあるのには驚きました。一方、日本ではこうした、ビジネス教育プログラムの改革は、まだ遅れているようです。将来的には、ビジネス教育プログラムの改革の進展が、市民データサイエンティスト人材を育成してゆくことを期待していますが、当面は各企業で、OJTの一環として、モデル分析等を通じて、社内人材を育成してゆくことが必要であると考えております。

 

<参考記事>

1)ガートナープレスリリースサイト:https://www.gartner.com/en/newsroom/press-releases/

2)統計学の西内啓氏がマーケター向けに執筆した『データでもっと儲ける方法』https://markezine.jp/article/detail/29733

2018年12月08日