前回も申しましたが、”スーパーサイクル”の真意はわかりませんが、過去の”ニューエコノミーブーム”が巻き起こした、”シリコンサイクルの消失説”などの論拠から推察すると、今後のデータ・エコノミーへ向けた社会インフラ需要が、IoT/AIの浸透を加速し、新たにデータセンター向けメモリー、センシングデバイスや機械学習向けプロセッサなどの半導体需要を創出するため、長期に渡り、需要増加が期待され、従来のサイクル的な変動は消失に向うという解釈かと想像しています。しかしながら、前回のコラムでも述べましたがこの仮説には問題認識に混乱があると思いますので、この点についてコメントしておきたいと思います。
さまざまな経済変動の簡単なフレームワークとし、古くから、景気循環論における周期性に概念として、次の4つのサイクルが知られています(http://www.irohabook.com/business-cycle)。
1.ゴンドラチェフ・サイクル:技術革新による長周期性で平均55年程度の長期波動
2.クズネッツ・サイクル:建設設備投資による20年程度の準長期波動
3.ジュグラー・サイクル:工場などの設備投資による10年程度の中期波動
4.キッチン・サイクル:在庫循環による3-4年程度の短期波動
多くの産業サイクルは概ね、こうした周期性の影響を受けていると考えられ、”シリコンサイクル”も、詳細なダイナミズムは特徴的なものがありますが、大枠はこのフレームワークに従っていると考えられます。今回の問題認識に混乱で重要なのは、こうした変動は決して、単独事象ではなく、連動して起きるという点で、技術革新により新たな製品需要が創出され、設備投資を喚起したとしても、投資循環や在庫循環などは相変わらず、連動して起こる、すなわち、新たな需要が創出されても、相当の市場の周期変動は連動するということかと思います(但し、従来からの変調はあるかもしれません。)
また、日本ではなかなか普及しませんが、米国MITのフォレスタ教授らが開発したシミュレーション手法でシステムダイナミックスというものがあります。この世界では、さまざまなサプライチェーンの周期変動が古くから検証されており、さらに詳細な議論が可能です(私も若干ですが、メモリー市場のダイナミズムに関して、論文を出しております)。実際、今回の期待とは裏腹に、システムダイナミックスから得られる見解では、”急速な成長を伴うシステムでは、振動変動を避けるのは難しい”ことも、古くから言及されています(Andrew Ford, "Modeling the Enviroment",2nd, chaper 18, p239, ISLAND PRESS, 2010)。
今回の”スーパーサイクル論”の結末はまだわかりませんが、言えることは、表層的な現象単独の推察(かつ、バズワードに流されず、)でなく、現象をシステムとしてとらえる”システム思考”が必要であることかと思います。今後、デジタルビジネスの時代においては、こうした科学的かつ広域的なアナリティカル思考ができるビジネスパーソンのニーズが高まってゆくでしょう。私もこうした思考判断プロセスに少しでも、お役に立ちたいと思っております。