ちょっと専門的な話題になりますが、”シリコンサイクル”という用語をご存じでしょうか?半導体・エレクトロニクス業界関連の方々には、お馴染みですが、半導体デバイス市場や設備投資には、過去のパターンとして、3-4年周期で好不況の波があり、関連企業業績を大きく左右するというものです。私自身もこのダイナミックスをアカデミックの立場から、研究テーマとして取り組んでいますが、ここ数年、このサイクルが消滅し、長期的な持続成長が持続するのでは?という期待が高まり、マスコミ的には”スーパーサイクル”とも呼ばれているようです。実際、過去数年、メモリー向け投資を中心に、半導体設備投資はプラス成長を維持し、2017年の半導体製造装置市場は前年比39%超える高成長を記録しました。
言葉が一人歩きしており、今回の”スーパーサイクル”の定義はわかりませんが、その背景としては、昨今のIoTの普及によるデジタル社会へ向けた動きが、新たに半導体需要を継続的に牽引するということが取り上げられております。私自身は、この話題に対しては、議論の混乱があり、サイクル自体が消滅するということには懐疑的でした。実際、昨年、今後の展開に関して、日経新聞、日刊工業新聞等のメディアの取材に対して、従来のダイナミズムが変わり、サイクルがなくなるということには懐疑的で、今後の推移には慎重な対応が必要であることをコメントしてきましたが、残念ながら、説明がやや複雑すぎたのと、もともと、私のコメントはインパクトがないので、好機の熱気に打ち消されてしまいました(笑)。一方、今年も前半を過ぎ、最近の報道を見るとややトーンが変わってきているようです。スマートホーンの不調やNANDメモリーのキャパシティの立ち上がりによる需給の軟化により、台湾ファンドリーの設備投資の削減やメモリー投資の先送りなどが顕在するなどの市況の軟化が見られ、”スーバーサイクル論”も見直しが入っているようです。
典型的なバズワードに対して、自説の妥当性を誇示する気はさらさらありませんが、もともと、”スーバーサイクル”に対する見方は、業界内でも分かれていたようでした。こうしたサイクル消滅に対するマスコミ的な過剰反応は、2000年初頭の”ニューエコノミー”を背景にした”ITバブル”等、過去に何度か見られたので、私を含め、古くからの業界の方々はあまり踊らされていないと思いますが、比較的若い世代の方は、新鮮に映るのか、結構、その期待に興奮していた方々もいるようです。この話題に関し、最近の半導体市場の変動要因については、何も実証分析も行われていないので、今後、腰を据えて解析してゆく予定です。また、先ほど、”議論の混乱がある”と言いましたが、次回ではこの点について簡単に触れたいと思います。