先日、ある研究会でお世話になっている先生から、Diffusion modelについてお問い合わせを受けた内容について、ここでもシェアしたいと思います。市場モデリングに通じている方はお馴染みかと思いますが、製品やサービス等の市場浸透のモデルとしてよく用いられているものに、Diffusion modelというものがあります。Bassモデルと呼ばれており、もともとはBass.Fが原型を提唱したものと記憶しております(Bass, Frank (1969). "A new product growth for model consumer durables". Management Science. 15 (5): 215–227)。直観的には、市場推移がS字カーブに従うことで馴染みが深いのですが、いわゆる”S字現象”は、マーケティングでは新製品の市場浸透やクチコミによる宣伝効果などのモデリングに使われておりますし、疫病の感染シミュレーションや自然界におけるさまざまな生態系の繁栄と絶滅のシミュレーションなどに用いられております。さらに、私の分野でもあるハイテク市場では、昔からテクノロジーイノベーションの普及と遷移については、J.M.アッターバック先生の教科書でも解説が述べられております。私もかつて、自分の研究でハイテク市場の実証研究について、調べたことがあるのですが、意外に知られていなかったものにメモリーの累積ビット需要を議論したものがあります(NM Victor, JH Ausubel. DRAMs as a model organism for study for technological evolution, Technological Forecasting and Social Change 69(3): 243-262, 2002 )。古い論文なので、最近の例ではありませんが、各世代のビット累積需要がdiffusion modelに従い、多世代のモデルをメモリーの世代交代の推移の実証に応用しております。また、私の事例で恐縮ですが、今、不足が懸念されている半導体シリコンウェハの口径別需要もdiffusion modelのフレームワークで説明できます(小川貴史、"ロジスティック成長曲線を用いた半導体ウェハ需要のシミュレーション─市場実証分析とモデルフレームワークの検討─"、生産管理、Vol.20、No.1、pp.71-78、2013年)
さて、ようやく本論ですが、上の例もそうですが、diffusion modelにはさまざまなバリエーションがあり、比較的単純なものに、ロジスティック成長モデルというものがあります。あまり知られていないようですが、米国のロックフェラー大学の人間環境プログラムでは、diffusion modelに従うさまざまな社会現象の研究がシェアされており、豊富な研究論文がアップされております(https://phe.rockefeller.edu/)。実際のデータ解析は、非線形回帰で、Rでもロジスティック成長曲線の関数がありますので、容易に観測データを評価できますが、このサイトでは、ロジスティック成長モデル専用のクラウトツールも提供しています。”Labletlab”(添付画像)という名前で、時折、バージョンアップされており、現在のバージョンは4.0です。このツールを使えば、データ入植を行い、ツール上で最適化を行うだけで、ロジスティック成長モデルの評価で必要となるパラメーターの推定が可能です。基本、データを入力するのみですので、学生さんへのデモ等には有効かもしれません。
Source:https://phe.rockefeller.edu/LogletLab/